9月も下旬にさしかかり、めっきり秋らしくなった頃に私は社会復帰をしました。
実に3ヶ月ぶりの会社への出社です。
まだ、濁音が充分に発音できない中、”不安” と ”でも、やっていくしかない” という気持ちで会社へ向かいました。
事情は、グループのメンバー・上司含め会社全体が把握してくれていたので、暖かく向かい入れてくれました。
なので、初日からハードワークということはなかったのですが、それでもさすがに会社へ行くと早く仕事における勘を取り戻したい、今までの休暇分を挽回したいという思いと焦りがこみ上げてきたものです。
まずは、それぞれの部署へ挨拶まわりをしました。
「おー!勝彦、元気になってよかったな!」
「勝彦さん、もう大丈夫になったんですかー?」
「災難だったね。。。」
等等、会う人・会う人に激励、心配等々の声をかけられました。
そのたびに僕も話をするのですが、やはり濁音がうまく言えない。。。
相手も話の途中で、それにきずく。
私は理由を説明せずにはいられず、何故濁音がうまく言えないのかを体には脂汗をかきながら笑いながら冗談っぽく話す。
「イヤー、まいりましたよ。へんとうせん の はんふん かぁ えし して うまく たくおん か いえなくて すすき まさひこ に なっちゃうん て すよ。 なんとか かいわ は てきる のと こうやって 右の鼻を手で押えるとちゃんと濁音が発音できるので、仕事上さして支障をきたすわけではないと思うんですけどね。。。ハァッ、ハァハァ〜」
まいった。内心本当にまいった。
社内の気心しれた人たちだから「ぜんぜん、大丈夫だよ!」とは言ってくれるが、営業職としてお客廻りをする時は。。。
どちらかというと、口八丁とはいわないまでも しゃべくり でそれなりの業績を上げていた僕には何ともいえない恥ずかしさと屈辱的な気持ちでいっぱいだった。
何とかしなければ。。。毎日発声練習をしてから10日以上が経つがいっこうに効果はでない。
会社復帰してから3日目、もう時間は待ってくれない。
顧客へも挨拶へまわらなければならない。行かないわけにもいかない。
「ますは、きこころ しれている おきゃくさん の ところへ の ほうもん たから。
ては、いってきます!」
メンバーへは、明るく振舞うものの内心は、かなり憂鬱でした。
9月も下旬だというのにその日は妙に暑い。
変な緊張感というか、受付について受付嬢に自分の名前を言う段階になった瞬間に脂汗が出てきた。
そして応接室につく頃には、もうシャツはびしょびしょだった。たかが1分程度の間に。
「コンコン」
「はい。」
「おー鈴木さん、元気になった!?」
「えー、おかけさま て、なんとか ふし に」
「・・・」
会社復帰の初日と同じことを繰り返した。話せば話すほどに脂汗が吹き出て目眩がしてきた。
目の前が真っ暗になり、気持ち悪くなってきた。
「鈴木さん、大丈夫!」
「えー、たいしょうふ てす。」
「今日は、このまま帰った方がいいよ、タクシーよんであげるから!」
5分くらい経っただろうか、、、
(いや、あの時の時間はすごく長く感じた。人間マイナス状態にある時ほど時間は長く感じるのだろうか。逆に楽しい時は ”あっ!!” と いう間の出来事なのに。なんとも理不尽な気がする。)
タクシーに乗っていた。
これからどうしたものか。。。
タクシーに揺られながらの帰路途中、私の脳裏に ”言葉” という2文字が急に浮かんできた。
