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2016年12月 6日

業績をV字回復させてきた経営者たちの「現場との対話」

 こんにちは。経営講演を担当しています中村です。年間300件近くの講演会と関わり、様々な講師のお話を聴講する中で、成功した経営者には、「共通点」があることが分かりました。このブログでは、そんな成功した経営者の共通点を紹介していきます。


 今回取り上げたいのは、「現場との対話」。企業の急成長、V字回復の舞台裏には、経営者が現場とコミュニケーションをとる、といった場面が数多く登場します。どのような現場コミュニケーションがあるのか。4名の経営経験者の実際の取り組みからご紹介します。


カッシーナで現場社員の活力を引き出した高橋克典元社長

 イタリアの高級家具メーカー・カッシーナ。その社長を任されたのが高橋克典さんでした。

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<高橋克典(たかはしかつのり)>1980年(株)ハナエモリ入社。同社にてマーチャンダイジング、マーケティングを担当。その後コンサルティング会社を経て、2001年より(株)シャルルジョルダン、2007年より(株)カッシーナ・イクスシー、2011年よりWMFジャパンコンシューマーグッズ(株)の代表取締役社長を歴任。衣食住に関連した世界の一流ブランドで、マーケティングや経営に携わり、数々の実績をあげている。

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 限られた期間の中で収支を改善しなければ即刻クビ、というのが雇われ社長の立場。業績アップのヒントは現場にあり!そこで高橋さんは、就任翌日からお弁当を持って、工場や倉庫に足を運び、車座で社員たちとお弁当を食べながら、現場の話に耳を傾けました。歴代社長が工場や倉庫に来るということがほとんど無かったようで、非常に喜ばれたそうです。


 一方、現場を見た高橋さんはあることに気付きます。高級家具を製造している工場に相応しい職場環境になっているのか?お客様のリビングルームや寝室まで家具を届ける役割を担う配送部隊の服は清潔か?そこで工場の環境整備をし、明るい場所にラウンジルームをつくり、配送部隊には、会社から格好良い新しいユニフォームを支給し、輸送トラックも新たにペインティング。ちょっとしたことですが、現場社員からは、経営者が自分たちのことを見てくれているという意識が高まり、また高級品を扱っているという誇りを持って仕事に取り組むようになり、会社に対する満足度や士気が格段に上がったと言います。これが"高橋流"最小限の投資でできるブランディングだそうです!


はとバスをV字回復させた宮端清次元社長
 黄色いバスでお馴染みのはとバス。かつて経営危機に陥った時期がありました。その再建を任されたのが宮端清次さんです。

 宮端さんが力を入れたのは「顧客満足」を越えた「顧客感動」。その一環として行ったのが、バス出発前の運転手の挨拶でした。それまでバスガイドが挨拶をするのは一般的でしたが、運転手が挨拶をすることで意外性を感じてもらおうという狙いがありました。

 しかし、運転手が挨拶をするという習慣が無く恥ずかしがり、なかなか率先して行えません。そこで宮端さんは、好楽シーズンは、自ら休日の朝一番で現場に行き、4時間130台のバスに乗り込んで挨拶をしました。その結果、社長がやるのであれば、ということで運転手も挨拶を行うようになり、お客様からも運転手が挨拶してくれるとは思わなかったということで、実際満足度が上がったと言います。また現場に通うことで、現場社員の名前を憶え、名前を呼んで「頼むよ!」と声掛けできるようになりました。社員の立場からすれば、「自分が役に立っている」と感じ、やる気が高まったといいます。欠損金20億を4年で解消した取り組みの1つです。

<宮端清次(みやばたきよつぐ)>1998年、東京都庁の役人から倒産寸前の(株)はとバス社長に就任。「会社を潰したくなかったら耐えてほしい」と訴え、徹底した顧客サービスと社長以下全社員の賃金カットを断行。役人らしからぬ攻めのコスト改革と、全社員が危機感と使命感を共有する意識改革を行う。初年度で黒字化、わずか4年で累積を一掃し、同社を再建した。

30年赤字続きだった蝶理を再建した田中健一元社長
 老舗商社の蝶理。かつて30年間赤字が続き、借金1000億を抱え、倒産危機に直面していた時期がありました。誰もが再建は無理と思う中、見事それを成し遂げたのが当時東レインターナショナルの社長を務めていた田中健一さんです。

 田中さんが蝶理の社長に就任する際、実は再建ではなく、借金を減らして畳むという役割でした。しかし、田中さんは社長として再建に向け奔走します。なぜそのような方向転換ができたのか。それは現場社員へのヒアリングがきっかけでした。

 蝶理の社長就任当初、現場社員へ片っ端からヒアリングを行いました。すると意外にも優秀で、どうすれば会社が良くなるかを一生懸命考えている社員が多くいることが分かりました。そんな社員の話に胸が熱くなると同時に、上に立つ者が現場の声を聞けていない、人材を生かせていないという問題に気づきます。そこから不可能と言われた蝶理再建に向けた組織改革が始まり、1000億円の借金を1年で完済することに成功します。

<田中健一(たなかけんいち)>1962年東レ(株)入社。1992年、東レインターナショナル(株)に移籍し、99年社長に就任。年商500億円を10年で3000億円に育て上げた。2003年、蝶理(株)の社長に就任。30年間赤字続きで誰もが再建不可能とみていた同社にて、1年で借金1000億円を全額返済し、黒字化に成功した。

リソー教育を特設注意市場銘柄の逆境から復活させた企業変革のプロ・皆木和義さん
 学習塾トーマスなどでお馴染みのリソー教育(東証一部)。リソー教育は約2年前、東証から特設注意市場銘柄に、その後監理銘柄に指定されました。そのとき再建と経営改革を託されたのが、リユースのハードオフコーポレーション社長などを務めた企業変革と経営再建のプロの皆木和義さんです。

 皆木さんは当時のリソー教育をみて、とても良い社員が沢山いるにもかかわらず、本業や風土、幹部の意識、従業員のベクトル等、様々な場面でぶれを感じました。そこで再建のため、財務基盤を至急に安定させると同時に共通の価値観である経営哲学や理念等の見直しに取り掛かります。その過程で、現場へのヒアリングを丁寧に行うとともに会社と全従業員のベクトルを統一し、「すべては子供たちの未来のために」という理念に邁進する組織へと改革を主導しました。

 現場主義の実践と組織(経営)のあるべき姿を追求し、またそれを実践する仕組みづくりを行うことで、全社一丸となって1年半で見事特設注意市場銘柄・監理銘柄から復活させ、同時に、教育の理想を追求する素晴らしい会社に変貌させました。

<皆木和義(みなぎかずよし)>経営再建のプロフェッショナルとして、様々な企業の経営や故郷岡山の応援、再成長戦略等に携わる実践派コンサルタント。2014年、(株)リソー教育副社長に就任。当時特設注意市場銘柄に指定され破綻の危機に瀕した同社にて、コンプライアンス重視の経営、ガバナンス経営を実現する組織改革を行い、全社一丸となって、1年半で見事復活させた。


 経営という様々なエッセンスの中のごく一部ではありますが、いずれも「現場との対話」によって、経営の活路を見出している事例です。今回はご紹介しませんでしたが、元ヤマト運輸社長・都築幹彦さんも「経営者には現場の声がなかなか伝わらない。皆良いことしか報告しないもの。"報連相"というのは当たり前ですが、意外と難しく、とても大切なことなのです」とおっしゃっていました。
 日々お忙しくされている経営者の皆様にとって、現場との対話は容易ではないかと思いますが、今回ご紹介したような現場がきっかけになっての成功例もあるということ、経営に携わる皆様のご参考になれば幸いです。

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